僕は何時も、彼女の出現に対するその機械的反応によって、いらいらさせられて来た。それは全く無意味だからー誰しも判で押したように、婦人の出現を歓迎出来ない。喩え人が恋愛中でも。それで僕はというと、彼女らが一度も恋の渦中にあったことはない、と彼女が僕に打ち明けた時も、サラーを信じた。そこには、更なる心からの歓待があり、憎悪や不信という僕の僅かな間隙を縫うように、僕は信じた。少なくとも僕に対しては、彼女は彼女持ち前の正義の範疇にある人でー注意深く操られるべき一片の磁器にも似た家族の片割れではない。
「サルーアー。」彼は呼んだ。「サル―アー。」音節に間(ま)を開けながら、耐え難い不実を伴って。
彼女がホールの階段の最下部で立ち止まり、僕たちの方を振り向いた時、どうして彼女を見る他人を装えよう?僕は嘗て、彼らの行動による以外、僕の偽りの役儀さえ詳細を記述出来た例(ためし)がない。それは何時も、小説の中で、読者は、どんな惰性で彼が選ぶ役儀であろうと、想像することを許されるべきである、と僕には思えた。僕は彼に出来合いの図解を与えたくない。もう僕は、僕自らの技巧によって暴かれる。僕はサラーに代わる他のどんな女も求めてはいないし、僕は読者に、一体となった開けた額(ひたい)、そしてくっきりとした口、頭蓋骨の形態を見て欲しいが、僕が表せることは、「はい、ヘンリ?」次に「貴方?」と言いながら、濡れたレインコウトゥのまま振り向く漠然とした姿である。
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