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The Quiet American/Graham Greene 成田悦子訳

執筆者の写真: 成田悦子成田悦子

僕が隣の戸口で待つ女を見た時、僕は室内に入ろうとして向きを変えた。僕には彼女の顔は見えなかった、ただ、白い絹のズボンと長い花柄のロウブだけとはいえ、その全てで僕は彼女に気付いた。彼女はあんなにも度々、丁度この場所と時間に帰宅する僕を待っていたのだ。

 「フォン、」僕は言ったーそれはフィーニクスを意味するが、今日では伝説上のものと程遠く、その灰から甦るものは何一つない。彼女は、パイルも同じように待っています、と彼女が僕に打ち明ける機会を作る前に、僕は知っていた。「彼はここにはいない。」

 「私は知っています。窓際に貴方一人が見えました。」

 「貴女は良ければ二階で待つといい。」僕は言った。「彼は直ぐにやって来るよ。」

 「私はここで待つ方がいい。」

 「良くない。警官は貴女を捕まえるかも知れない。」

 彼女は二階へと僕に従った。僕は僕が作ってもかまわない幾つもの皮肉で不愉快な冗談を思い付いた。彼女の英語も彼女の仏語もどちらも、その皮肉を彼女なりに理解するには十分巧みとは言い難かった、それに、不思議な事に、僕には彼女を傷付けるどころか、僕自身を傷付ける事さえ全く眼中になかった。僕達が踊り場に着いた時、老婦人は皆、彼女達の頭の向きを変え、僕達が通り過ぎるとすぐに彼女たちの声は甦り、まるで彼女達が一斉に歌い出したかのようになった。

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