「ベンドゥリクス」彼は愛情を籠めて言ったが、それでも世間は言っただろう。彼には憎悪の理由があり、僕にはないと。
「貴方は何をしようとしてるの、ヘンリ、雨の中?」誰でも焦(じ)らしたくて抑えられない衝動にかられる男たちがいる:誰一人受け容れない男達、その美徳。彼は口籠りながら言った。「ううん、僕は少し外気に触れたくて。」思いがけない一陣の風と雨の最中(さなか)、北の方角へ輪を描いて持って行かれないように、彼はどうにかこうにか彼の帽子をしっかり押さえた。
「サラーはどうしてる?」そうしなくてもそれは奇妙に思われたかも知れないから、僕は聞いた。彼女が病気、不幸せ、臨終以上に僕を喜ばせるものは何もなかったが。僕はあの当時、彼女が経たどんな苦悩も僕の持ち物を軽くし、仮に彼女が死んだら、僕は自由になれるだろうと思い遣った。僕はもう人が、僕の卑しい暮らし向き故に、想像してしまうどんなことも思うまい。僕は哀れで無邪気なヘンリを好ましくさえ感じられて、僕は思うに至った、もし彼女が死んだらと。
彼は言った「ああ、彼女は夕時何処かへ出かけている。」すると又、僕の心の中のあの悪魔を仕事に差し向けた。ヘンリが他の質問者に、ちょうどそんな風に、返事をしなければならなかった以前が思われる。しかし僕だけは、サラーが何処にいるか知っていた。「一杯やろうか?」僕は尋ね、僕の不意打ちに彼は僕に近付き、自ら歩調を合わせた。僕たちは前に、彼の家の外で、一度も飲んだことはなかった。
5
Comments